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源氏物語~賢木~(6)

十六日、斎宮は桂川で御祓えをなさいます。
通常の儀式と比べて、伊勢までお送りする勅使や随行する上達部などには、世間の評判も良い高貴な方々をお選びになりました。
桐壺院が特別に目を掛けていらっしゃることも考慮してのことでしょう。
野宮を出なさる時、光る大将殿からいつも通り尽きることのない未練を述べたお手紙が届きました。
「口にするのも畏れ多いあなた様に」といって木綿につけて、
「雷でさえも私たちの仲を裂けるものでしょうか。
八洲もる国つ御神も心あらばあかぬ別れの中をことわれ
〔日本を守護する国つ神にも、もし人と同じ心があるならば、心の他に別れなければならない私たちの仲について、どうしてなのか説明してください〕
考えれば考えるほど歯痒い思いがすることです」
とあります。
非常に慌ただしい折でしたが、お返事はしました。
斎宮のお返事は女別当に代作させなさいました。
「国つ神空にことわる中ならばなほざりごとをまづやたださむ」
〔国つ神が天からお裁きになるような仲であるならば、あなたのいい加減さをまずはお正しになるのではないでしょうか〕
光る大将殿は、お姿をご覧になりたくて内裏にも参上したいとお思いになるのですが、相手にされずにただ見送ることにでもなればみっともないような気がしたので、参内は思いとどまって自邸でぼんやりと物思いに耽っていらっしゃいました。
斎宮のお返事が大人びていたのが予想外で嬉しく、微笑みながら御覧になっています。
「御年齢の割には情趣を解する人でいらっしゃるようだな」と想像するとお心が動きなさるのでした。
このように、普通ではなくやっかいなお相手に対して、必ず心が反応する御性質で、「本当によく拝見することもできた幼いころを見ないままで終わってしまったのは惜しいことをしたな。しかし、世の中はどうなるか分からないものだから、お会いする日もきっと来るだろうよ」などとお思いになるのでした。
※雰囲気を重んじた現代語訳です。

いよいよ野宮を出ることになりました。
野宮は京都の嵯峨野にあり、今では野宮神社となっています。
今年のゴールデンウィークにお詣りしてきました。

小さな神社でしたが、物語に書かれていた黒木の鳥居が独特の存在感を放っていました。
ここが神社になったのは室町時代だそうです。
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