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源氏物語~賢木~(20)

「俗世を離れてしまうことができるものだろうか、と試しにここへやってきたのですが、寂しさも紛れず、かえって心細さがますばかりです。途中までしか聞いていないことがあってこちらに留まっておりますが、どうですか」
など、陸奥紙にくだけた感じでお書きになっている様子が素晴らしくございます。
「浅茅生の露のやどりに君をおきてよもの嵐ぞしづ心なき」
〔浅茅が生い茂る露のようにはかない世界にあなたを残してきた私は、寺に籠もっていても四方から吹きつけてくる激しい風のせいで心が落ち着かないことです〕
など、細やかな情愛に紫の姫君もお泣きになりました。
お返事は白い紙に、
「風吹けばまづぞ乱るる色かはる浅茅が露にかかるささがに」
〔風が吹くとすぐに乱れ散る露ですが、そんな風にすぐ様相が変わる浅茅の露に巣をかける蜘蛛のように、すぐ心変わりをする頼りないあなたをあてにしてい生きている私です〕
とありました。
「御筆跡が次第に素晴らしくなっていくなあ」
と独り言をおっしゃり、かわいらしいものだと微笑んでいらっしゃいます。
いつも手紙を交わしていらっしゃるので、光る君の筆跡にとてもよく似つつ、そこに少し女性らしい優美さが加わっていらっしゃるのでした。
「あらゆる面で、素敵な女性に育ててきたものよ、我ながら」とお思いになっていました。
この雲林院から程近く、吹きすさぶ風もそのまま及びそうな賀茂の斎院にもお手紙を差しあげなさるのでした。
取り次ぎの女房である中将の君には、
「旅の空の下、恋煩いからこうして魂がふらついているのをご存知ないことでしょうね」
などと恨み言をお書きになり、斎院には、
「かけまくはかしこけれどもそのかみの秋思ほゆる木綿襷かな
〔口にするのは畏れ多いことですが、その昔の秋のことが思い出されることです。神に捧げる木綿の襷を私もかけたいものですよ〕
またあの時のようになってみたいものだとは思うのですがその甲斐もありませんね。取り返せるものでもないので」
などと、馴れ馴れしく唐の浅緑の紙に、木綿をつけた榊などを添えて神々しく仕立てて差しあげなさったのです。
※雰囲気を重んじた現代語訳です。

寺に籠もりながら、2人の女性に手紙を送るやつがいたんですよ~
なぁーにぃー!?やっちまったなァ!
(╬ಠ益ಠ)
男は黙って、モールス信号。
光源氏が前々から朝顔の姫君に恋心を抱いているのは語られていましたが、肉体関係を持っていたようなことは書かれておらず、ここで初めてそれを匂わせるようなことが書かれました。
光源氏は雲林院にいて、そこから賀茂神社というのはそう遠く離れていません。
朝顔が新斎院になったことは前に出て来ていました(ここ)が、系図を再掲しておきます。
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