枕草子~五月御精進のころ~(6)


~前回までのあらすじ~

1)五月、雨の日が続いてすることもないのでホトトギスの鳴き声でも聞きに行こう、と出かけることにしまちた。

2)明順さんの家に寄ってホトトギスを聞いて、それからお米を挽く所を見せてもらいまちた。

3)明順さん、お食事を出してくれまちた。でも雨が降ってきたので急いで帰ることになりまちた。

4)帰る途中、卯の花がたくさん咲いていたので車にたくさんさしまちた。せっかくなので誰かに見せたいと思って、藤原公信を呼んでみまちた。

5)公信は待たずに宮中めざしてまっしぐらに帰りまちたが、公信が追いついて話しかけてきまちた。あれこれ話しているうちに雨が本降りになってきまちた。

 

はやく季節感取り戻したいのですが(現在1月ww)長いんですよねー、この章段。

一時中断して5月に再開という作戦もありなんですが、何とか来月中には終わらせたいですね。


【原文】
「などかこと御門御門のようにもあらず、土御門しも上もなくしそめけむと、今日こそいとにくけれ」
など言ひて、
「いかで帰らむとすらむ。こなたざまは、ただおくれじと思ひつるに、人目も知らず走られつるを、
奥行かむことこそいとすさまじけれ」とのたまへば、
「いざ給へかし、内裏へ」と言ふ。
「烏帽子にてはいかでか」「とりにやり給へかし」など言ふに、まめやかに降れば、
笠もなき男ども、ただ引きに引き入れつ。
一条殿より傘もて来たるを、ささせてうち見かへりつつ、
こたみはゆるゆると物憂げにて卯の花ばかりをとりておはするもをかし。


【語釈】
◯「土御門しも上もなく」
土御門は前回も注を付けたが、大内裏にあった門の名称で、上東門のこと。こちらで図を参照。「上」もなく、というのは文脈から(つまり、前回の「雨が本降りになってきた」の続きであることから)考えて「屋根」のこと。「なぜこの門は屋根がないんだ!」ということ。

◯「すさまじけれ」
「すさまじ」はスーパー重要語で「興ざめだ、殺風景だ」の意味。係助詞「こそ」の影響を受けて已然形になっている。

◯「いざ給へかし」
重要表現で「さあいらっしゃい」と誘う時の決まり文句が「いざ給へ」。「かし」は念押しの終助詞で今回のように命令形の下につくことが多く「~しなさい/~しなさい」などと、「よ/ね」程度の意味を添える。

◯「烏帽子」読み:えぼうし
烏帽子での参内は出来なかった。

◯「笠もなき男ども、ただ引き入れに引き入れつ」
「引き入れ」は牛車を門内に引き入れること。したがって、ここでの男は清少納言らの車の供のことになる。


【現代語訳】
侍従殿は「なぜ他の門と違って、この土御門に限って屋根もなく着工したのだろう、と今日はとても憎らしい」
などと言って、
「さて、どうして帰られようか。こっちはただ後れまいと思ったから人目も憚らず走るしかなかったのに。
このまま奥へ行ってしまうようでは実につまらん」とおっしゃるから、
私は「ささ、いっしょにおいでくださいよ。宮中に」って言ったの。
「烏帽子でどうして参内できようか」「取りに人をおやりなさいな」などと言ううちに、土砂降りになったから、
笠もない車の供の男たちは、どんどん構わず車を引き入れてしまったわ。
侍従殿は、一条殿から傘を持ってきたのをささせて、こちらを振り返りつつ、
来るときと違って帰りはのろのろとだるそうにして、卯の花だけを手に取ってお行きになるのも笑えたわ。


公信は結局何だったのでしょう(笑)

走ってきてただ卯の花を持ってとぼとぼ帰るだけ、という。

清少納言ちゃんに手玉に取られた恰好でちょっとかわいそうな気もします。

でも、そんな公信の後ろ姿を見て笑っている清少納言ちゃんが好きです(笑)

 

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