枕草子~五月御精進のころ~(7)


~前回までのあらすじ~

1)五月、雨の日が続いてすることもないのでホトトギスの鳴き声でも聞きに行こう、と出かけることにしまちた。

2)明順さんの家に寄ってホトトギスを聞いて、それからお米を挽く所を見せてもらいまちた。

3)明順さん、お食事を出してくれまちた。でも雨が降ってきたので急いで帰ることになりまちた。

4)帰る途中、卯の花がたくさん咲いていたので車にたくさんさしまちた。せっかくなので誰かに見せたいと思って、藤原公信を呼んでみまちた。

5)公信は待たずに宮中めざしてまっしぐらに帰りまちたが、公信が追いついて話しかけてきまちた。あれこれ話しているうちに雨が本降りになってきまちた。

6)公信も中宮様のもとに来るよう誘ったけど、服装がイマイチということで帰っていきまちた。

 

さて、帰って来た清少納言と愉快な仲間たち。

ようやく中宮定子ちゃんのもとに到着です。


【原文】
さて参りたれば、ありさまなど問はせ給ふ。
うらみつる人々、怨じ心憂がりながら、
藤侍従の、一条大路走りつる語るにぞ、みな笑ひぬる。
「さていづら、歌は」と問はせたまへば、かうかうと啓すれば、
「くちをしの事や。上人などの聞かむに、いかでか、つゆをかしき事なくてはあらむ。
その聞きつらむ所にて、きとこそはよまましか。
あまり儀式さだめつらむこそあやしけれ。ここにてもよめ。いと言ふかひなし」
などのたまはすれば、げにと思ふに、いとわびしきを、言ひ合はせなどするほどに、
藤侍従、ありつる花につけて、卯の花の薄様に書きたり。
この歌おぼえず。


【語釈】
◯「藤侍従」読み:とうじじゅう
藤原公信のこと。

◯「啓すれば」
非常に重要な謙譲語。絶対敬語とも言う。(中宮皇太子に)申し上げる、の意味。

◯「くちをし」
スーパー重要語。「残念だ」の意味。

◯「ありつる」
スーパー重要語。「さっきの」の意味。


【現代語訳】
そうして定子様のもとに参上したところ、その時の様子なんかをお尋ねになったわ。
おいてけぼりにされて恨み言を言っていた女房たちは、ブーブー言いながらも、
藤侍従が一条大路を走って追いかけてきたのを話すと、みな笑ったわ。
「さて、ねえ早く早く、歌は?」と中宮様がお尋ねになるから、実はこれこれで、と申し上げると、
「残念なことねえ。殿上人なんかが聞きつけたら、どうして少しも趣あることがなくていられましょうか。
そのホトトギスを聞いたところでさっと詠んでおけばよかったのに。
あんまり儀式ばって詠もうとしたのはおかしなことよ。ここでもいいから詠みなさい。しょうもないわね」
などとおっしゃるので、確かに、と思ってとてもがっかりで、相談したりしているうちに、
藤侍従は、さっきの牛車の卯の花につけて、卯の花の薄様に書いて送ってきたの。
でも、この歌は忘れちゃったわ。


中宮様のもとに帰ってきたら、歌を詠んでいなかったために軽く叱られました。

そりゃそうでしょうよ(笑)

何しに言ったのよ、ってなりますよね。

しかし、最後に公信から歌が届くわけですが、「忘れちゃった」は酷いですよねえ。

自分が歌を詠まなくて中宮様に叱られたところに、

歌を寄こしてきた優等生的な行為が腹立たしかったのではないでしょうか。

公信としては、意図してはいないのですが、これ見よがしな感じがしたのかもしれませんね。

つまり何が言いたいかというと、忘れたと書いていますが、そんなわけないだろう、と。

癪に障るから書き記すのをやめたのではないだろうか、ということです。

その証拠に、底本によっては(能因本では)公信の歌は書き残されているのです。

 

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