源氏物語~帚木~(12)


出家を決心する時はとても心が澄んでいるようで、俗世を振り返ることなどは思ってもいません。

『ああ、本当に悲しいことです。よくもまあ出家しようなどとお思いになったことですよ』などと

よく知っている人が会いに来て、

ただただつらいと忘れることができずにいる男が出家したことを耳にして涙を落とすと、

侍女や年配の女房達が

『あの御方のお心は情愛深いものでしたのに』とか『もったいないほどお美しかったのに』などと女に言うのです。

自分でも、頬のあたりにまで掛かるべき前髪を触ってみると、ひどく短くて心細いので泣き顔になるのですよ。

我慢しても涙がこぼれてしまうので、何につけても耐えられず、

出家したことを後悔することも多いので、仏様もかえって不純であるとご覧になるでしょう。

俗世にいた頃よりも、中途半端に仏道に身を置いてはかえって悪道に落ちるような気がいたします。

前世からの深い因縁で、出家する前に探し出したような場合も、男にとっては後々嫌な思い出になるのです。

悪い時も良い時も寄り添い、男が何かしでかした時も見て見ぬふりをしたような仲こそ、

夫婦の契りも深く、しみじみと情愛深いものがありましょう。

それなのに、出家騒動などがあっては後々のことを考えると心配で気を許すことなどできましょうか。

またちょっと惹かれる女性がいるというだけで恨みに思い、露骨に怒って背を向ける、これもまた馬鹿げたことでしょう。

浮気なところがあっても、結ばれたころの愛情を大事に思うならば、男を思い出のより所としておけばよいのに、

動揺して取り乱したりすると、それで夫婦の縁が切れてしまうのです。

あらゆることに対して穏やかに構え、男の浮気に嫉妬しても知っている様子でほのめかすにとどめ、

恨み言を言うような場合でも、感じよくほのめかすならば、それによって男はその妻をますます愛しく思うでしょう。

多くの場合、浮気は妻の出方次第でおさまるものなのです。

あまりにも、男を寛大に放置しているのは、男としては気が楽ですし、そんな妻はかわいいようですが、

どうしても男から軽んじられてしまうでしょうね。

岸につながれていない船がただよっているような浮気はつまらないというのも、なるほどもっともなことです。

そうではございませんか」というと、中将の君は頷きました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


なかなか凄いことを書きますよね、紫式部。

もちろん、後半の浮気について妻が取るべき態度についてです。

男なんてこんな風に考えているんでしょ? ってことでしょうか。

あるいは、女性達へのアドバイスでしょうか。

確かに、うちの夫が浮気してるみたいなの、って紫式部に相談したらこんな風に返ってきそうですね。笑

清少納言に相談したら

「ビシッと言ってやんなさい!誠心誠意謝罪するまで家に入れちゃダメよ!」って言いそうです。笑

 

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