源氏物語~空蝉~(3)


光る君は、「それなら向かい合わせに座っている所を見たいな」と思ってそっと歩き出すと、

小君が鍵を外してくれた妻戸を開け、扉と簾の隙間へと入り込みなさいました。

小君が入っていった部屋の格子はまだ閉めておらずに隙間が見えたので、

近寄って西の方に向かって覗きこみなさると、格子の近くに立ててある屏風も端の方が畳まれていて、

人目を遮るべき几帳も、暑かったせいでしょう、風が通るように垂れ布をまくり上げていたので、

室内をとても良く見通すことができるのでした。

灯火は近くにともしておりました。

「母屋の真ん中の柱近くにいるのが私の思い人であろう」とまずは女君に目をとめなさいました。

女君は色濃い絹織物を数枚重ね着して、その上に何かを羽織り、

すっきりとした頭の形をした小柄な女性が、どうということもない平凡な恰好をしておりました。

顔も、向かい合っている人にさえ見られまいとしています。

非常にほっそりとしている手はなるべく袖の内に隠そうとしているようでした。

もう一人の女性は東向きに座っていて、何もかもが光る君に見えました。

単衣の薄い絹の服を重ね着して、二藍色の小袿のようなものを人目も気にせず着崩して、

紅色の袴の腰紐を結んでいるあたりまで襟がはだけていて、品がない感じがします。

肌はとても白く美しい感じで、ふっくらと肉付きがよくて背も高く、

頭の形、前髪のかかった額は何ともあざやかな感じで、目元や口元はとても魅力的で美しい顔立ちでした。

髪の毛はとても多くて、長さはそれほどでもありませんでしたが、肩の辺りに垂れている様子はとても美しく、

全体的に欠点がなく美人であるように見えておりました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


ニューキャラ登場です。

空蝉と碁を打つ女性ですが、これは紀伊の守の妹で、「軒端荻」と呼ばれる女性です。

インパクトのある登場ですね。

胸元があらわでかなりみだらな恰好をしているようです。

もちろん、男性がいるなどとは夢にも思っていない所からの油断なのでしょうが。

下品な感じがする、と思いつつもちょっと惹かれている光源氏ですが、こればっかりは仕方ないでしょうね。

 

ところで「二藍」と出てきましたが、藍色よりは紫に近い色です。(参照

 

では、最後に紀伊の守近辺の系図を更新しておきます。

 

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