源氏物語~夕顔~(14)


この恋愛沙汰というのは真面目な人でも乱れてしまうこともあるものですが、

これまでは見苦しいことなどはなさらず、人がお咎め申し上げるような振る舞いはなさらなかったのですが、

不思議なほど、別れた朝も、合わずにいる昼の間もじれったさに思い悩んでいらっしゃり、

また一方では、とてもばかげたことで、そこまで心にとめるほどのものでもない、と心を落ち着けなさいます。

女は、驚くほど素直でおっとりして、威厳のようなものはなく、

ひたすら幼い感じでありつつ、とはいえ、男を知らないわけでございません。

「それほど高貴な人物ではあるまい。それにしても、あの女のどこにここまで惹かれているのだろう」

と光る君はつくづく思っていらっしゃいました。

この夕顔の女の家を訪れる時は、狩衣姿というわざとらしいほど粗末な御装束で、

顔もまったくお見せにならず、夜更けの人が寝静まっている間に出入りなさるので、

昔の話にある、狐か何かが人に化けたもののようにも思えて、女は薄気味悪い気がして嘆かわしく思うものの、

男の気配は手探りでも、ただ者ではないとはっきり分かるほどだったので、

「誰なのだろう。やはりあの好色な男のしわざのような気がするわ」と惟光を疑っておりました。

しかし、惟光は平然と素知らぬ顔をして、まったく関わりない風で、ひっきりなしに馴れ馴れしくやってくるので、

どういうことであろうかと理解に苦しみ、女の方でも、普通と違った奇妙な物思いをしていました。

光る君もまた、

「このように私に気を許しているように見せて油断させておいて、いつか不意にどこかへ姿を隠してしまったら、

どこをどう訪ね当てたら良いのだろうか。

ここは一時的に身を寄せている隠れ家と思われるので、どこかへ移って行く日がいつ来るかも分かるまいに」

と真剣にこの女をお思いになるものですから、

逃げられて簡単に諦めがつくようないい加減な恋ならば、今のように気ままな恋の相手と割り切れば良いのですが、

今の気楽な関係のまま過ごしていこう、などとお思いになることは到底できません。

人目を憚って通わずにいらっしゃる夜などは、とても絶えがたく苦しいほどでいらっしゃるので、

「やはり、素性はさておき、二条院に迎え取ってしまおう。

もし噂になって都合の悪いことになったとしても、それはそういう運命だったのだ。

我が心ながら、これほどまで女に執着することなどなかったのに、いったいどういう因縁だろうか」

などと考えていらっしゃいました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


光源氏の夕顔に対する恋情は本物のようです。

激熱ですね。

光源氏には正妻=葵の上がいて、その他、これまでに空蝉・六条御息所の2人が恋の相手として登場しました。

が、夕顔への愛着が圧倒的にハンパないです。

まあ、空蝉も光源氏に心を許していたらどうだったか、というところですが、空蝉はどうせ人妻ですからね。笑

 

そんな夕顔のイメージはAKB48でいうなら、大島優子ですね。

とっくに卒業してますが、大島優子はかわいいですよ、ほんとに。

1回しか握手したことないですけどね、しっかりしてるし。

生来の困り顔も夕顔のはかないイメージに合うかと思います。

 

その夕顔がある日突然姿を隠したら、という光源氏の想像が出てきました。

前々回、光源氏はこの夕顔のことを、「頭の中将の恋人だった『常夏』かもしれない」と疑っていました。

『常夏』というのは、頭の中将の前から唐突に行方をくらました経緯があるのでした。(参照

それを想起して心配しているのでしょう。

 

さて、今回の最後の部分、「素性はさておき、二条院に迎え取ってしまおう」と訳しました。

原文は「誰となくて、二条の院に迎へてん」です。

二条院というのは前にも出てきましたが、光源氏の自邸です。

「誰となくて」は、「誰だということも知らせずに」と訳すのが一般的みたいです。

夕顔の素性を誰にも知らせずに、という風に解釈するようです。

しかし、「知らせずに」も何も、素性なんて分かってないわけで、やや疑問。

「誰ということもなくて⇒誰かということも関係なくて」の方が良いんじゃないかな、と思ったのです。

偉い先生たちが「知らせずに」で訳してるんで、そっちの方がきっと正しいんでしょうけどね。笑

 

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