源氏物語~夕顔~(34)


右近をお呼び出しになって、穏やかな夕暮れ時に、話などをなさって、

「やはりどうしても分からない。あの人はどうして素性をお隠しになったのかな。

本当に名乗るほどの身分ではなかったとしても、

私の思いの深さを知らずに、最後までお隠しになったのが恨めしくてしかたなかった」

とおっしゃると、

「どうしてそんなに隠し申し上げなさることがございましょうか。

いつどのような機会にお名乗り申し上げなさればよかったというのでしょう。

最初の出会いからして思いがけないものだったので、『現実とは思えない』とおっしゃって、

『お名前を隠していらっしゃるのも、やはりあのお方だからで、

きっと、いい加減に正体をごまかすおつもりでいらっしゃるのでしょう』

とつらく思っていらっしゃったのですよ」

と申し上げると、

「無意味な意地の張り合いだったというわけか。私はそんな風に隠すつもりはなかったのだ。

ただ、このような人に許されない振る舞いを経験したことがなかったものだから。

父帝がお諫めなさるのをはじめとして、慎まなければならないことが多い身で、

女性とのちょっとした戯れごとのような恋でも、人がおおげさに言うのだよ。

そんな煩わしい身であるのだが、

あの日の夕方以来、不思議とあの人のことが心にとまって、強引にお会いすることになったのも、

あの人はこうなる運命でいらっしゃったのだろうと思うと、しみじみ気の毒なことだ。

しかしまた恨めしくも思う。

このように短く終わる運命だったのに、どうしてあんなにもしみじみ愛しく思ったのだろう。

あの女について、詳しく聞かせてくれ。今となっては何も隠すことはあるまい。

七日ごとの供養に御仏の絵を描かせるのにも、誰のための供養か分かっていなければ祈ることもできない」

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


光源氏と右近の会話です。

夕顔サイドには光源氏の正体はほぼ確信できていたのですが、光源氏の方は分からないのですね。

頭の中将と関係のあった「常夏」かもしれない、とは思っていましたが。

次回、右近が夕顔のことを語ります。

 

<<戻る   進む>>

 

Posted in 古文

コメントは受け付けていません。