頭部や髪の毛の垂れかかった感じなどは、素晴らしい美人に少しも劣らないほどで、
袿の裾のあたりにまとまって、更に後ろへ一尺あまり長く引いているように思われます。
お召しになっているものにまで言及するのは口数が多いような気もしますが、
古い物語などに女性が登場する場合などは、まずやはりお召し物に触れるものでございます。
薄い紫色の色あせたのに、黒ずんだ袿を重ね、
上着には香をたきしめた、美しい黒貂の皮衣を着ていらっしゃいました。
古めかしく由緒ありげなお召し物でしたが、やはり若い女性には似合わない、物々しい感じが目立ちます。
とはいえ、確かにこの皮衣がないと寒いだろうと思われる表情なので、気の毒にお思いになりました。
光る君は何もおっしゃることができず、自分までも口がきけなくなったような気がしましたが、
「この人のだんまりを打ち破ってみよう」
と思ってあれこれ話しかけなさるのですが、
ひどく恥ずかしがって袖で口元を覆い隠していらっしゃるの姿は田舎っぽく古臭くて、
儀式を司る役人が笏を持って両肘を横に張りながら歩き出した時のような大袈裟な感じがして、
さすがに少しは愛想笑いを浮かべていらっしゃる様子も、中途半端で落ち着きがない印象です。
しみじみといたたまれない心地がした光る君は、いつもより急いでお帰りになることにしました。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
前回に引き続き、末摘花の姿をこっぴどくこき下ろしている紫式部はやはり楽しそうです。笑
「黒貂の皮衣」と出てきましたが、「黒貂」は“ふるき”とルビが振られています。
調べてみると、黒貂は現代では“クロテン”と読む動物でした。(参照)
「儀式を司る役人が笏を持って両肘を横に張りながら歩き出した時のような」
というのはイメージできるでしょうか?
こんな風に笏を持っている感じですが、この絵より肘をもっと上に張っているものと思います。
口元を隠す仕草ですからね。
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