源氏物語~末摘花~(31)


源氏物語-末摘花-

二条院へご到着なさると、紫の君がとても幼くかわいらしい感じで、

無地の桜の細長をしなやかに着こなして無邪気にしていらっしゃるのはとてもかわいらしく、

同じ紅でもこんなに魅力的なのもあるものだな、と思われなさるのでした。

古風な祖母の影響で、お歯黒もまだだったのを、お化粧をさせなさってみると、

眉がくっきりと見えて、かわいく、また美しくございます。

「私はどうしてあの姫君と関係を持って苦々しくもてあましているのだろう。

気がかりなこの子のお世話をせずに」とお思いになりつつ、いつものように一緒に雛遊びをなさったり、

絵などを描いては色づけをなさったりしています。

紫の君は、色々と面白く好きなように描きちらしなさり、光る君もそれに合わせるように描き添えなさいました。

光る君は非常に長い髪の女性をお描きになり、鼻の先を紅く塗ってみたのですが、描いた絵でさえも醜くございました。

それから、鏡に映るご自身のお姿が非常に美しいのをご覧になり、いたずらに鼻を紅くお塗りになってみると、

これほどにお美しい顔立ちでさえ、こうなると見苦しいもので、紫の君はそのお顔を見て、大笑いなさいました。

「私がこんな風になったらどうしますか?」

「いやですわ」

紫の君は、紅がそのまま染みついてしまうのではないかと心配なさっております。

光る君は拭き取る真似をなさって、

「あれ、落ちなくなってしまったよ。つまらないことをしたものですね。帝は何とおっしゃるでしょうか」

と、とても真面目な顔をしておっしゃるので、かわいそうに思った紫の君が近寄ってお拭きになるので、

「平仲みたいに墨を塗らないでくださいよ。紅ならまだ我慢できるけれど」

などとおふざけになる様子は、非常に仲の良い兄妹のようでした。

日がとてもうららかになって、早くも一面に霞がかって、花を咲かせるのが待ち遠しい中に、

梅は蕾もふくらみ、少し咲きかけているのが格別に見えました。

階隠のふもとにある紅梅は毎年まっ先に咲く花で、早くも色づいておりました。

くれなゐの花ぞあやなくうとまるる梅のたち枝はなつかしけれど
〔紅い色の花は無性に嫌な感じがするよ。高くそびえ立つ梅の枝には心惹かれるのだが〕

いやもう・・・」

と、わけもなくついため息が出てしまわれるのでした。

さあ、このような人々の顛末はいったいどうなったことでしょう。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


最後は紫の君とのお話になり、少し心が救われた光源氏という感じで締めくくられました。

途中ででてきた「平仲へいちゅう」という喩えですが。

文学史を勉強すると必ず覚えさせられる平安時代の歌物語に『平中物語へいちゅうものがたり』というのがあります。

好色で知られた歌人・平貞文さだふみを主人公とした物語ですが、その平貞文のあだ名が「平仲/平中」でした。

岩波文庫『源氏物語(一)』の注を引用します。

平仲が、女の元で、硯の水入の水で目を濡らして泣くのを、女が見破った。女は水入の中に墨を入れておいた。それと知らずに平仲は、女を訪ねて例の如く泣いたところ、顔が真黒くなったという話がある。

夜に女の邸を訪れて夜明け前には帰っていく、という当時の恋愛スタイルだから成立することですね。

昼だったら、墨の入った水であることは一目で分かりますからね。

それにしてもようやく終わりました、「末摘花」の巻。

次は「紅葉賀」という巻になります。1月から開始したいと思います。

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