源氏物語~若紫~(10)


源氏物語-若紫

なるほど、同じ木草でも、たいそう格別に趣深く植えていらっしゃいました。

月もない時分だったので、遣り水にかがり火を灯し、灯籠などにも火を入れておりました。

南に面した部屋をとても綺麗にしつらえていらっしゃいます。

どこからともなく漂ってくる奥ゆかしいお香の他、仏前に焚くお香など、素晴らしい香に満ちており、

更に光る君に吹く追い風もたいそう格別なので、奥の部屋にいる人々も気遣いをしているようでした。

僧都は、この世の無常について、また来世のことなどを光る君にお話し申し上げなさいます。

「私の罪は恐ろしく、どうにもならない藤壺の宮のことにばかり心を奪われていては、

生きている限りそのことで思い悩んで終わるに決まっている。まして来世は非常に苦しむことになるだろう」

と思い続けなさり、仏門に入ってこのような暮らしをしたいとも思いなさりつつ、

昼に見た少女の面影が気にかかり、恋しいので、

「ここにいらっしゃるのはどなたですか。お尋ねしたい夢を以前に見たことがあったのです。

今日その夢の意味が分かった気がします」

と申し上げなさると、僧都は笑って、

「唐突な御夢語りでございますね。その娘を尋ね当てなさっても、がっかりなさるだけでしょう。

故按察大納言は、亡くなってひさしいのでご存じないでしょうね。

その正妻が私の姉だったのです。

その按察大納言がお亡くなりになった後、姉も仏門に入ったのですが、近ごろ病気を患いまして、

私も京へ出向くことがないものですから、私を頼ってここに籠もっているのです」

「その大納言には娘がいらっしゃると聞いたことがありましたが。

いや、別に下心があるわけではなく、まじめな話として申し上げております」

と当てずっぽうにおっしゃってみると、

「一人だけ娘がいましたが、死んでからもうかれこれ十数年になるでしょうか。

亡き大納言はその娘を入内させるつもりで非常に大切に育てていたのですが、

その思いはかなわずに死んでしまいましたので、この尼君がたった一人で娘を大事に育てておりました間に、

どのような人の手引きだったのでしょうか、兵部卿の宮が密かに通うようになって結ばれなさったのを、

兵部卿の正妻はご身分も高かったもので、娘にとっては気が気でないことばかりが多く、

常に物思いをするようになって、とうとう亡くなってしまったのです。

物思いから病気になるものだということを目の当たりにしましたよ」

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


長くなっちゃいました。

光源氏が昼間見た少女の素性を聞き出す所です。

僧都に最初はぐらかされるのが面白いです。

「この家に住んでいるのは誰だ?」

で、年老いた尼君の説明をする僧都。笑

そっちじゃねーよ!
(#゚,_ゝ゚)バカジャネーノ?

と光源氏が思ったかどうかは定かではありません。

尼君についても気になっていないわけではないでしょうからね。

光源氏は覗き見をしながら、少女は尼君の娘かも、と勘ぐっていたわけですから。

しかし、その勘は外れました。

尼君に一人娘はいたのですが、10年も前に亡くなっているのだそうで。

次回、家系図で整理したいと思います。

では。

 

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