源氏物語~若紫~(15)


源氏物語-若紫

夜明けの空は霞が立ち籠め、山鳥がどこかでさえずっているのが聞こえてきます。

名も知らぬ木や草の花が色とりどりに咲き乱れ、錦を織ったように見え、

鹿があたりをうろうろと歩き回っているのを目新しくご覧になっているうちに、

病の苦しさもすっかり紛れてしまっているのでした。

聖は動くこともままならぬ身でしたが、どうにか下りてきて、光る君のために護身法をして差し上げなさいます。

陀羅尼を読む声は、修行の功が積もった感じのしみじみする枯れた声で、歯の隙間からわずかに漏れてきます。

お迎えの人々が参上して、快復なさったお祝いを申し上げ、帝からの使いもありました。

僧都は、見たこともないような果物を、何やかんやと谷の底まで取りに行かせ、おもてなしなさいます。

「今年中は山に籠もる深い誓いを立てておりますので、光る君のお見送りに参上でないのは、

我ながら中途半端な心持ちがいたしますよ」

と申し上げなさって、お酒を差し上げなさいました。

「滝の音に心惹かれていたのですが、帝まで心配してお使いをくださったというのも畏れ多くございますので。

今のこの花の時期を逃さずにまたこちらへ参ることにしましょう。

宮人に行きて語らむ山ざくら風よりさきに来ても見るべく
〔内裏に帰って宮人に語ることにしましょう。山ざくら風が吹いて花が落ちてしまう前に来て見ることができるように〕

とおっしゃる時の御ふるまいや声づかいもまばゆいほどだったので、

優曇華の花待ち得たる心地して深山桜に目こそうつらね
〔光る君の来訪は、三千年に一度だけ咲くという優曇華の花が咲いたかのような心地がして、山桜には目もとまりません〕

と申し上げなさると、光る君は微笑んで、

「三千年に一度花開くのに立ち会うというのは難しそうですが」

とおっしゃるのでした。

聖は光る君から杯を授かって、

奥山の松のとぼそをまれにあけてまだ見ぬ花の顔を見るかな
〔山奥に住む我が庵の松の戸を珍しく開け、いまだかつて見たことのない花のように美しい顔を見たことですよ〕

と涙をこぼしながら光る君を見申し上げておりました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


光源氏はいよいよ都へ帰ることになりました。

その前に世話になった僧都や聖と酒を酌み交わしています。

僧都の歌に出てきた「優曇華うどんげの花」は架空の花です。

三省堂詳説古語辞典によると、

((梵語ぼんごの音訳「優曇波羅華うどんはらげ」の略))①インド原産の樹木。仏典では、三千年に一度花が咲いて、そのときに仏がこの世に出現するとされる。②きわめてまれなことのたとえ。

と解説されています。

もちろん、②は①を比喩として捉えた場合なので、①が基本です。

まあつまり架空の花なのですが、実在する花に当てはめることもあるようです。

Wikipediaによると、バショウの花などを優曇華の花と呼ぶこともあるそうです。

 

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