源氏物語~若紫~(41)


源氏物語-若紫

さて、六条の家に残った女房たちですが、父である兵部郷の宮様がお見えになって紫の君のことをお尋ねになると、

何とも申し上げようがなくて皆困っておりました。

しばらくは誰にも言ってはならぬと、光る君がおっしゃり、少納言の乳母もそう思っていたことなので、

固く口止めされていたのです。

ただ、「どこへか、少納言の乳母が連れ出してお隠ししてしまいました」とばかり申し上げるので、

兵部郷の宮様も情けなくお思いになって、

「亡き尼君も、姫君が私の邸に移ることを非常に嫌がっていらっしゃったから、

乳母は出しゃばった真似をして、大人しく私に引き渡すことを、嫌だとは言わずにおきながら、

こんな風なことをしでかして、落ちぶれさせることになってしまうのか」

とおっしゃって、泣く泣くお帰りになったのでした。

「もし、何か分かったら知らせよ」

とおっしゃるのも、女房たちには厄介なことに思われました。

兵部郷の宮様は僧都にもお尋ねなさってみたのですが、何の手がかりも掴めず、

紫の君の、もったいないほどに素晴らしかった顔立ちなどを恋しく悲しく思いだしていらっしゃいました。

兵部郷の宮様の御正室も、以前は確かに紫の君の母親を憎んでいたのですが、

実は、今やそんな気持ちも消え失せて、自分で育てたいとお思いになっていたので、

そのようにことが運ばなかったことを残念なことだと思っていらっしゃいました。

次第に紫の君の所に女房たちが集まってきました。

遊び相手の子どもたちは、紫の君が普通と違ってとても華やかなお姿なので、一緒に遊べることを喜んでいました。

紫の君は、光る君がお出かけになってもの寂しい夕暮れ時だけは、

亡き尼君のことを恋しく思ってお泣きになりましたが、父宮のことを思い出しなさることはございません。

もとより、父宮が近くにいないことに馴れていらっしゃったので、

今ではすっかり養父のような光る君に親しくなついていらっしゃいました。

光る君がどこかからお帰りになれば、まっさきに出迎えて、しみじみとお話をし、

光る君の懐に飛び込んで少しも恥ずかしがったりすることもございません。

非常にかわいらしいのでした。

女が利口ぶり、何か思うことがあって何やかんやと面倒な関係になってしまうと、

これでは私の心も今までと違ってこの女が厭わしく思えてくるのではなかろうか、

と思って自然と気がねしてしまい、そうなれば女も男を恨みがちになって、予想外の結末を迎えたりするものです。

それに対して、この紫の君はとてもかわいらしい遊び相手でした。

「本当の娘であれば、これくらいの年になってしまうと、

こんな風に隔てなく心を許して一緒に寝たり起きたりすることはできないが、これは普通にはない関係だな」

と思っていらっしゃるようでした。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


長かった「若紫」の巻ですが、これでおしまいです。

最後の方で、「帚木」巻の「雨夜の品定め」を思わせる内容が出てきましたね。

さておき、すっかり鬼畜の君に懐いてしまった紫ちゃん。

鬼畜の正体をまだ分かってない幼い紫ちゃん、かわいそう。

兵部郷の宮の探偵的な能力の低さも凄いですね。笑

そして、僧都の君もまったく情報を与えないとは、嫌われたものです。

家から忽然と紫の君と乳母が消えたとなれば、しつこく迫っていた光源氏がすぐ頭をよぎったはず。

尼君が死ぬまで(死んでも)何もしなかったくせに、という恨みも入っているかもしれません。

さあ、少しお休みをしたあとは、次巻「末摘花」に移っていきます。

 

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