枕草子~小白河といふ所は~(3)


(前回までの内容)

①藤原済時の邸である小白河殿で「法華八講」を催すことになりました。清少納言も早朝に出発して行ってみると既に大混雑。左大臣・右大臣を除くすべての上達部、それから殿上人もたくさん来ていました。

②中でも、当時の三位中将、今の関白・藤原道隆様や、当時の中納言・藤原義懐様の素晴らしさは別格でした。

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前回の最後に登場した義懐が女にちょっかいを出す所から今回は始まります。

法華八講というしかつめらしい行事の割には不謹慎な気もしますが、ワクワクな展開を期待しましょう。笑


【現代語訳】

後から来て駐める場所がなくて、池のそばに寄せている女車を御覧になった義懐中納言様が、

実方の君に向かって、

「伝言をふさわしく言うことができる者をひとり」

といってお呼び寄せになると、どういう人なのかは知らないけれど、選んで連れていらしたの。

「何て言ってやるのがよいかな」

と義懐様とその近くにいらっしゃる方々が相談なさって送り出したけど、内容までは聞こえなかったわ。

使いが入念に心づもりをして例の女の車へ歩み寄っていくのを見守りつつ、一方ではお笑いになっていたわ。

車の後ろに近寄って伝言を言うみたいだけど、ずいぶん長いこと立っているから、

「歌でも詠むのだろうか、兵衛の佐、返歌の準備をしておけよ」

などと笑って、早く返事を聞きたいと、年配の上達部を含めた全員がそっちの方を御覧になっていたの。

本当、関係ない人まで注目していたのが面白かったわ。

返事を聞いたのか、少し歩き始めたところで、車の中から扇を差し出して呼び戻したの。

歌でも詠み間違えた時くらいしかこんな風に呼び戻したりはしないのでは、と思いつつ、

でも、今回みたいに時間がかかった場合、よっぽどなもの以外はそのまま直さない方が良いのに、と思ったけど。

使いがたどり着くのもじれったかったみたいで、

「どうだった?」「返事は何て?」と誰もがお尋ねになったわ。

けど、すぐには言わずに、使いをお命じになった権中納言義懐様のもとに参上して、

もったいぶった感じでご報告申し上げたの。

三位の中将様が、

「早く言え。あんまり気負いすぎてしくじるなよ」

とおっしゃると、

「女からの返事も気負いすぎてしくじったものでございますが」

と答えたのは聞こえたわ。


今回はすべて既出の登場人物です。

兵衛の佐は藤原実方、三位の中将は藤原道隆のことでしたね。

清少納言は傍観者です。

伝言をうけとった女の応対に少し不満があるようですね。

返事が遅いことと、遅かったくせに訂正まで出しているのが気に入らないみたいです。

さて、では最後に原文です。


【原文】
後に来たる車の、ひまもなかりければ、池に引きよせて立ちたるを、見給ひて、
実方の君に、
「消息をつきづきしういひつべからん者一人」
と召せば、いかなる人にかあらん、選りて率ておはしたり。
「いかがいひやるべき」
と、近うゐ給ふかぎりのたまひあはせてやり給ふ言葉は聞こえず。
いみじう用意して車のもとへ歩みよるを、かつ笑ひ給ふ。
後の方によりていふめる。久しう立てれば、
「歌などよむにやあらん、兵衛の佐、返し思ひまうけよ」
など笑ひて、いつしか返り事聞かんと、あるかぎり、おとな上達部まで皆そなたざまに見やり給へり。
げにぞ顕証の人まで見やりしもをかしかりし。
返り事聞きたるにや、すこしあゆみ来るほどに、扇をさし出でて呼びかへせば、
歌などの文字いひあやまりてばかりや、かうは呼びかへさん、
久しかりつるほど、おのづからあるべきことは、なほすべくもあらじものをとぞ覚えたる。
近うまゐりつくも心もとなく、
「いかに、いかに」と、誰も誰も問ひ給ふ。
ふとも言はず、権中納言ぞのたまひつれば、そこにまゐり、
けしきばみ申す。
三位の中将、
「とく言へ。あまり有心過ぎて、しそこなふな」
とのたまふに、
「これもただ同じことになん侍る」
といふは聞こゆ。

 

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