源氏物語~紅葉賀~(2)


源氏物語-紅葉賀

「今日の試し演舞は『青海波』に尽きますね。あなたはどうご覧になりましたか」

と帝がお話しになると、何となくお返事を申し上げにくくて、

「格別でございました」

とだけ申し上げなさるのでした。

「相方も悪くはありませんでしたね。舞の雰囲気といい、手つきといい、やはり名家の子は別格です。世間に名高い舞の名手たちも確かにとても優れてはいるが、おっとりしていて若々しい魅力を見せることはできないから。試し演舞の日にこのように最高のものを出し切ってしまうと、本番が物足りなく思われはしないかという気もするけど、どうしてもあなたにお見せしたくて用意させたのだよ」

などと申し上げなさいました。翌朝、光る中将の君から、

「昨日はいかが御覧になったでしょうか。私は藤壺様の御前だと思うと、経験したことがないほどに心が乱れまして。

物思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うちふりし心知りきや
〔物思いにかられてとても舞うことなどできそうにもない私が、それでも袖を振りながら舞っていた心の内の本心を分かってくださいましたか〕

あなかしこ」

というお手紙が届けられました。

まぶしいほどに美しく輝かしかった光る君のお姿、お顔立ちを御覧になった後に、このようなお手紙が届いたので、お返事を差し控えることがおできにならなかったのでしょうか、

唐人の袖ふることは遠けれど起ち居につけてあはれとは見き
〔唐の国の人が青海波の舞を生みだしたのは遠い昔のこと、また、あなたが袖を振っていたのも私の座席からは遠く離れてはいましたが、その一挙一動をしみじみ素晴らしく感じつつ見ておりました〕

おおよそ・・・」

とお書きになっていたのを、光る君はこの上なく喜んで、

「このような方面のことにも、的確に他国の文化にまで思いを馳せなさるとは。お后としてのお言葉が早くも」

と微笑まれて、肌身離さず手元に置き、広げて見ていらっしゃいました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


光源氏と藤壺の宮のアブナイ贈答歌です。

本来なら藤壺は光源氏の手紙は捨て置く理性があるのですが、昨晩素晴らしい舞姿を目にしたばかりだったので思わず返事を出してしまいました。

藤壺の宮の返歌のあとには「大方には」という短い言葉がついていて、とりあえず「おおよそ」と訳しておきました。

肯定文で「およそ、だいたい」、否定文で「決して、まったく」、という意味になるのが「大方」という副詞です。

これは、どうとでも解釈できるように敢えてあいまいな言葉を藤壺の宮は使っているのであって、無理に補って解釈すると違ってくるようです。

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