源氏物語~紅葉賀~(20)


源氏物語-紅葉賀

送られてきた帯は頭の中将のものでした。

「私の直衣よりも色が濃いな」と見比べなさっていると、直衣の端袖もなくなっているのにお気づきになりました。

「何ということだ。一生懸命恋に乱れている人は、こんな馬鹿げたことも多いのだろう」と思って、ますます色恋に対しては慎重になろうとお思いになるのでした。

頭の中将が、宿直所から、

「まずはこれを直衣にお付けになるのが良いでしょう」

といって端袖を包んで送ってきたので、「どうやって取ったのだろう」と思うと面白くありませんでした。

「もしこの帯がなかったらやられっぱなしだったな」とお思いになりながら、帯と同じ色の紙に包んで、

なか絶えばかごとや負ふとあやふさに縹の帯はとりてだに見ず
〔あなたとあの女との仲が切れてしまったら恨みを負うのではないかと思うと恐ろしくて、女から送られてきたこの縹色の帯は見なかったことにします〕

という歌を添えてお送りになります。

君にかくひきとられぬる帯なればかくて絶えぬる中とかこたん
〔あなたにこうして帯を引き取られてしまったので、このまま仲が絶えてしまうだろうと恨みます〕

逃げられませんよ」

とすぐさま返事が来ました。

日が高く昇ってから、それぞれ殿上の間に参上なさいました。

光る君はもの静かに、頭の中将に対してはよそよそしくふるまっていらっしゃり、頭の中将もたいそうおかしくて仕方ないのですが、公的なことを帝に多く奏上する日だったので、きちんと真面目な感じでいるのを見るにつけ、互いに笑みがこぼれてくるのでした。

頭の中将は、人がいなくなった隙に近づいて、

「隠しごとは懲りたでしょうね」

といって、たいそう癪に障る横目で見てきます。

「何の、そんなことはありません。来てすぐに帰った人の方こそ気の毒ですよ。しかし実際めんどくさいね、男と女は」

と言い合い、互いに口止めなさいました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


前回、源典侍から送られてきたものの中で、帯は頭の中将の物だった、という所から始まります。

そして光源氏は直衣を見てみると「端袖」がなかった、というのですが「端袖はたそで」って何でしょう。

三省堂詳説古語辞典によると、

直衣なおし・直垂ひたたれ・袍ほうなどの、袖を長くするため、袖の端にもう一幅ひとのか半幅(一五センチメートル)付け加えた部分。

と説明されています。

それから、本当は最後の口止めの部分には「とこの山なる」と引き歌が使われています。

犬上のとこの山なるいさや川いさと答へてなき名もらすな

が元歌だと岩波文庫の注には書かれています。

簡単に言うと、「何を聞かれても『さあ』と答えて、いわれのない噂を漏らすなよ」ということです。

「犬上」は地名、「とこの山」はその地にあった山、「いさや川」はとこの山を流れる川。

滋賀県に「犬上郡」という名はありますが、「とこの山」というの名は残っていません。

「いさや川」は現在の「芹川」の古名とのことです。

「犬上の~いさや川」までが「いさ」を導く序詞となっています。

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