「今年は少し大人らしくおなりくださいまし。十歳を過ぎた人は雛遊びなんてしないものですよ。こうして立派な旦那様がいらっしゃるのですから、それにふさわしい落ち着いた女性として光る君様にお目にかかるようになさってください。御髪を整えて差し上げるだけで嫌がりなさるようでは困ります」
などと少納言の乳母が申し上げています。
紫の君が雛遊びにばかり夢中になっていらっしゃったので、反省していただこうと思って言ったのですが、そう言われた紫の君は、
「じゃあ、私は結婚したのね。女房たちの夫は醜いけれど、私はあんなに素敵で若々しい人を夫にしたんだわ」
と、今になってやっとお分かりになったのですが、とはいえ、それが分かったのも年の数が加わったためかもしれませんね。
このように幼さが何かにつけて目立つので、二条院にお仕えする人々も奇妙だとは思っていましたが、まさかこんなにも年の離れたお相手だとは思っていないのでした。
さて、光る君は参賀を終えると左大臣家に参上なさったのですが、ご内室はいつもと同じく改まったよそよそしい雰囲気で、かわいらしいと思える感じもなく息苦しかったので、
「年も改まったことですし、今年は少しうち解けてくださったらどんなにか嬉しいでしょうに」
などと申し上げなさるのですが、光る君が二条院に女性を住まわせてかわいがっていらっしゃるということを聞き及んでいらっしゃったので、その女がよほど大事なのだろう、と思うとますます心が離れ、疎ましく、またきまり悪くお思いになっているようです。
あえてそんなことは知らないように振る舞って、光る君のくだけたご様子を前にしては強く突き放すこともできずにお返事を申し上げなさいましたが、その様子はやはり普通の人とはまったく違って格別なのでした。
光る君よりも四歳ほど年上でいらしたので、ご自身でもそのことをきまり悪くお思いでしたが、女盛りの美しい方でいらっしゃいます。
「この方に不足はないのだ。私のあまりによこしまな心のせいで、このように恨まれているのだよ」
と理解しておられました。
大臣の中でもとりわけ帝の信任が厚くていらっしゃる父と、皇女でいらっしゃる母との間に生まれた一人娘として大事に育てられてきたという自負と矜恃のために、光る君の振るまいが少しでも誠実さに欠けると、気に入らないとお思いになるのですが、光る君の方は「そんなに気にするほどのことではないのだ」と慣れさせようとしていらっしゃるものですから、お二人のお心が隔たるのも至極当然のことでしょう。
左大臣殿も、光る君のお心がこのように頼りないことを、薄情なことだとお思いになりながら、いざ目の当たりにすると、そんな恨みも忘れてあれこれとかいがいしくお世話しなさるのでした。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっています。
前回正月を迎え、光源氏は紫の君に挨拶をすると内裏へと向かったのでした。
その後も雛人形で遊んでいる紫の君に乳母が注意を与えるところから今回は始まっています。
そして光源氏と結婚したのだということを紫の君はようやく知ったのです。
まあ、なし崩し的でしたし、子どもなので仕方ありません。
当時の慣例では、男性が三夜連続で女性のもとに通うと結婚成立と見なされました。
ところがこのケースでは、光源氏が夜襲を仕掛け、そのまま強引に自邸へと連れ去ったのでした。
さて、参賀のために内裏へ向かった光源氏は、その後正妻の邸へと向かいました。
相変わらずな夫婦ですね・・・。
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