~前回までのあらすじ~
①子どもができなかったお爺さんとお婆さんは住吉大社にお詣りして子を授かるようにお祈りをすると、その御利益によって子が生まれたのですが、生まれた赤ちゃんは1寸の大きさしかなかったので、その子を一寸法師と名付けました。十数年間育てたのですが背は全く大きくなりません。嘆いたお爺さんとお婆さんは、一寸法師をどこかへ追い出したいと考え始めました。それを知った一寸法師は自ら家を出て京へ行くことにしたのでした。
②都に着いた一寸法師は、ある貴族の邸を訪ねました。その貴族は初めて見る小さな人間に驚いたものの、興味を持ったのか家で世話をすることにしました。その貴族には、それはそれは美しい姫がいたのですが、一寸法師はその姫に一目惚れをしてしまいました。何とか姫と結ばれたい一寸法師は策略を巡らし、この貴族の家から姫を連れ出そうとします。
③一寸法師と姫君は屋敷を出た後、舟で難波を目指したのですが、暴風に押し流されて奇妙な島に漂着してしまいました。島におりたって散策していると二匹の鬼がやってきて、一寸法師を呑み込もうとしました。しかし一寸法師は何度呑み込まれても鬼の目から出て来てしまうので、閉口した鬼は打ち出の小槌を落っことして逃げて行ってしまいました。一寸法師は打出の小槌を使って自分の背を大きくしたり、食事を出して腹を満たしたりしました。
さあ、今回が最終章です。さっそくいきましょう。
【現代語訳】
その後、一寸法師は打ち出の小槌で金や銀を出し、姫君を連れて都へと戻ると、五条の辺りを宿として十日ほどいたのですが、若くて立派な男女がいるという噂が自然と広まって帝のお耳にも入り、急遽一寸法師をお呼び出しになりました。
すぐに参内すると、帝がお会いになって、こうおっしゃいました。
「ほんとうに美しい子だ。どう見てもこれは卑しい出自の者ではない」
帝が一寸法師の先祖は誰なのかお尋ねになりました。すると一寸法師が答えます。
「年老いた父は、人の讒言によって流されてしまった堀河の中納言と申した人の子で、流された田舎で生まれ育ちました。年老いた母は、伏見の少将と申した人の娘で、幼い頃に両親に先立たれてしまったそうです」
帝の思ったとおり、一寸法師は出自も卑しくはなく、性質にも卑俗なところがなかったので、殿上へとお呼ばれになって少将に任命され、めでたく堀河の少将と名乗るようになりました。少将は両親も都に呼んで、またとないほど大事にお世話なさったのでした。
そうこうするうちに、少将殿は中納言へと昇進なさいました。性分や容姿をはじめとして、万事が立派でいらっしゃったので、ご一族の評判は素晴らしいものとなりました。宰相殿もこのことを聞き及んで、とてもお喜びになりました。その後、一寸法師こと堀河の中納言と姫君は三人の子宝にも恵まれ、素晴らしく繁栄なさったのでした。
住吉の神が困っている人を救おうとお誓いになったことにより、後世まで繁栄なさったということでは、世にこれほど素晴らしい例しはないだろう、と人はみな申しております。
最後は流布版と比べてそれほどの違和感はありません。
ついには打ち出の小槌で金銀財宝まで出してしまったを除けば。笑
また、お爺さんとお婆さんの素性が詳しく語られ、一寸法師の出世も具体的に描写されていますね。
何はともあれ、めでたしめでたし。
以上、御伽草子版『一寸法師』でした。
【原文】
その後、金銀打ち出だし、姫君ともに都みやこへ上り、五条あたりに宿をとり、十日ばかりありけるが、このこと隠れなければ、内裏に聞こし召されて、いそぎ一寸法師をぞ召されけり。すなはち参内つかまつり、大王御覧じて、「まことにいつくしき童にて侍る。いかさまこれはいやしからず」。先祖を尋たずね給ふ。おほぢは、堀河の中納言と申す人の子なり。人の讒言により流され人となり給ふ。田舎にてまうけし子なり。うばは、伏見の少将と申す人の子なり。幼き時より父母におくれ給ひ、かやうに心もいやしからざれば、殿上へ召され、堀河の少将になし給ふこそめでたけれ。父母をも呼び参らせ、もてなしかしづき給ふこと、世の常にてはなかりけり。
さるほどに少将殿、中納言になり給ふ。心かたち、始めより、よろづ人にすぐれ給へば、御一門のおぼえ、いみじくおぼしける。宰相殿聞こし召し、喜び給ひける。その後、若君三人出で来けり。めでたく栄え給けり。
住吉の御誓ひに、末繁盛に栄え給ふ、世のめでたきたまし、これに過ぎたることはよもあらじ、とぞ申し侍りける。
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