腰折れ雀(原典版「舌切り雀」)⑤


【前回までのあらすじ】

①ある日、お婆さんが、子どもたちに石をぶつけられて腰を折ってしまった雀を助けました。毎日かいがいしく世話をしていると、徐々に雀は快復し、ついには飛んで行くのでした。

②それから二十日ほど経ったころ、その雀がお婆さんのもとに戻ってきて瓢箪の種を一粒落としていきました。お婆さんがその種を庭に植えてみると、大きな瓢箪がいくつもなりました。なかでも取りわけ大きな瓢箪は、口を切ってみると中にぎっしりとお米が詰まっていたのでした。

③自分も雀の御利益に預かろうと思った隣家に住むお婆さんが、詳しいいきさつを聞きにやって来ました。腰が折れてしまった雀を助けたら、その雀が恩返しに来たのだ、という話を聞いた隣家のお婆さんは、雀に石をぶつけて腰を折り、その雀を介抱してやることにしました。

④欲張ったお婆さんは、より多くの利益を得ようと3羽の雀の腰を折り、介抱してから放ちました。怒った雀たちはお婆さんの元に瓢箪の種を一粒ずつ加えて持ってきました。大きな瓢箪が実りましたが、食べてみると信じられないほど苦くて具合が悪くなってしまいました。

 

雀さんの復讐が始まりましたが、今回でこのお話は最後です。

さっそくいってみましょう。


【現代語訳】

この瓢箪を食べた人はみな嘔吐し、吐き気がおさまりません。具合を悪くした近隣の人も集まってきて、

「いったい何を食わせたんだ。ああ、恐ろしい。茹でた湯気をほんの少し嗅いだだけで嘔吐がとまらなくて死ぬかと思った」

と怒り、問い詰めようと思ってやって来てみると、このお婆さんも子どもたちもみな正気を失って吐き散らして横たわっていたので、仕方なく人々は帰っていきました。

二、三日が過ぎると皆快復しました。

お婆さんは、「あれは米になるはずだったのを、焦って食べてしまったからこんなことになったのだ」と思って、残りの瓢箪はすべて吊して干すことにしました。

そして数ヶ月経って、もう良いころだろう、と思って、お米を移し入れるための桶を用意して部屋に入りました。

お婆さんは嬉しくて、歯のない口を大きく開けて笑いながら桶を引き寄せて中身を移したところ、虻、蜂、ムカデ、トカゲ、蛇などが出て来て、お婆さんの目や鼻など全身に取りついて刺したり噛みついたりするのですが、お婆さんは嬉しさで痛さも感じません。

ただ米がこぼれかかっているのだと思って、

「ちょっとお待ちよ、雀さん。少しずつ取り出すんだから」

などと言っています。

七、八個の瓢箪からはたくさんの毒虫が出てきて、子どもたちを刺したり噛みついたりし、遂にはお婆さんを刺し殺してしまいました。

腰を折られた雀が恨みに思って、たくさんの虫たちに相談して、中に入れておいたのでした。

隣のお婆さんの雀については、もとから腰が折れていて、カラスに命を取られてしまいそうだったところを助けたから、雀も感謝したのです。

ですから、人を羨んだり妬んだりしてはいけないのです。


こういう結末でした。

「雀報恩の事」というタイトルがついているのですが、「恩に報いる」というより「因果応報」というところでしょう。

報恩の話は前半だけですからね。

現行版「舌切り雀」よりもクレイジーだったお婆さんは、雀からの仕返しも現行版以上で、結局死んでしまいました。

しかし、虫を米だと勘違いしていた、というのはどういうことでしょう?

先に毒瓢箪を食べたせいでしょうか?

ちなみに、虫さされにはマニューバEXを愛用?しています。

4580102230490a


【原文】

食ひと食ひたる人々も、子どもも我も物をつきてまどふほどに、隣の人どももみな心地を損じて来集まりて、「こはいかなる物を食はせつるぞ。あなおそろし。露ばかりけぶりの口に寄りたるものも、物をつきまどひあひて死ぬべくこそあれ」と、腹立ちて「いひせためん」と思ひて来たれば、主の女をはじめて子どももみな物おぼえず、つき散らして臥せりあひたり。いふかひなくて、ともに帰りぬ。二三日も過ぎぬれば、誰々も心地なほりにたり。女思ふやう、「みな米にならんとしけるものを、急ぎて食ひたれば、かくあやしかりけるなめり」と思ひて、残りをばみなつりつけて置きたり。
さて月ごろ経て、「今はよくなりぬらん」とて、移し入れんれうの桶ども具して部屋に入る。うれしければ、歯もなき口して耳のもとまでひとり笑みして、桶を寄せて移しければ、虻、蜂、むかで、とかげ、くちなはなど出でて、目鼻ともいはず、一身に取りつきて刺せども、女痛さもおぼえず。ただ「米のこぼれかかるぞ」と思ひて、「しばし待ち給へ、雀よ。少しづつ取らん」と言ふ。七つ八つの瓢より、そこらの毒虫ども出でて、子どもをも刺し食ひ、女をば刺し殺してけり。
雀の、腰をうち折られて、ねたしと思ひて、よろづの虫どもを語らひて入れたりけるなり。隣の雀は、もと腰折れて、からすの命取りぬべかりしを養ひ生けたれば、うれしと思ひけるなり。されば物羨みはすまじき事なり。


<<戻る

 

Posted in 古文 | Leave a comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です