大学入試新テスト〔国語〕-2


2021年の1月から始まる新テストについて、第2弾は古文の例題の検証です。

まず、問題の前に書かれていた「出題のねらい」という説明書きですが。

その最後に、

「他者の考え方を聞くことによって、題材の古文への理解が深まるような対談の場面を題材としてとりあげた」

と書かれていて少しびっくりしました。

テストを受けながら古文をより深く理解させようという教育的意図がある、ってことですか。

テストのねらいとしては少しズレていて、おせっかいな気がしますけど。(^^;;


【古文】

『平家物語』より「忠度都落」というメジャー過ぎるほどメジャーな本文。

例題だからか?あるいは公表したときにジャーナリストがさっぱり分からないといけないからか?

 

問1は傍線部訳の問題。現行センター試験の古文問1と同じ。

(ア)おろかならぬ御事に思ひ参らせ候へども
①あなたのことを聡明なお方と存じ上げてはおりましたけれども
②武家としての務めをおろそかに考えておりませんでしたが
歌道のことを大事なことと思い申し上げておりましたけれども
④師のご恩をこの上なくありがたいと思い続けておりましたが
⑤帝のご命令を無視できないことと考えて参上しましたけれども

(イ)ゆめゆめ疎略を存ずまじう候ふ
①決してあきらめてはなりません
②断じてお許しにならないでしょう
③少しも気にしてはいけません
④必ずや一目置かれることでしょう
全くいい加減に思いはしません

(ウ)子細におよばずといひながら
歌の扱いをとやかく言っても仕方がないとは言うものの
②武人として名を残すことはかなわないとは言うものの
③歌の善し悪しについての評価は問わないとは言うものの
④罪を負うことになった事実は覆せないとは言うものの
⑤歌を後世に残すことくらいは差し支えないとは言うものの

(ア)と(イ)は傍線部だけで答えが出るもので、(ウ)は前の内容を踏まえていなければ答えが出ないもの。

3問中1問は考えないと答えが出ない問題、という構成も現行のセンター古文と同じ。

最近、問1の傍線が短いものが目立ちつつあったのですが、3~4年前くらいに回帰した感じです。

 

問2は文法問題で、これも現行センター試験と代わり映えはない。「られ」の識別だが簡単すぎて屁が止まらないので割愛。

問3は文学史の問題。『千載集』の説明として正しいものを選ぶというもので、文系の受験生にとっては極めて常識的な問題。

①八代集最初の勅撰和歌集。四人の撰者が撰進した。優美繊細で縁語・掛詞などが多用される。
②八代集最後の勅撰和歌集。五人の撰者が撰進した。余情妖艶で本歌取りや体言止めが多用される。
新古今和歌集に先立つ勅撰和歌集。撰者が単独で撰進した。余情幽玄の美を重んじ詠嘆的な歌が多い。
④後拾遺和歌集の次に成立した勅撰和歌集。撰者が単独で撰進した。新鮮な題材を取り入れた叙景歌が多い。
⑤古今和歌集の次に成立した勅撰和歌集。五人の撰者が撰進した。贈答歌が多く詞書が長いのが特徴である。

八代集は成立順に言えるようにしましょう、と世界史を選択している受験生にも指導しています。

①古今集→②後撰集→③拾遺集→④後拾遺集→⑤金葉集→⑥詞花集→⑦千載集→⑧新古今集

ですね。撰者まで覚えるのは①②⑤⑦⑧の5つの歌集です。

 

問4は謎のカス問題。

【文章Ⅱ】の傍線部A「空の色は、何色というイメージですか」について、次の(ⅰ)(ⅱ)の問いに答えよ。

(ⅰ)「空の色」をイメージさせる表現はどれだと言っているか。【文章Ⅰ】の中から抜き出した次の①~⑧のうちから二つ選べ。
①落人帰りきたり ②京都の騒ぎ ③忘れ形見 ④西海の浪の底 ⑤憂き世 西を指いて 夕の雲 ⑧昔ながらの山桜

(ⅱ)「空の色」のイメージからどのような忠度の姿が想起されると言っているか。最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①死を受け入れられず逃避する姿
②不可避な死に対して抵抗する姿
死の先の安寧な世界へ向かう姿
④文人としての死に満足する姿
⑤死を覚悟し手柄を諦めている姿

【文章Ⅱ】というのは、『平家物語』に対する現代語での対談で、一人は教師、一人は生徒、という設定のような感じで進みます。

これ、ⅰもⅱも答えが全部そのまま現代語で書かれていて、しかも現代文の読解とはまったく違って該当箇所を見つけるのもお茶の子さいさいで、何の問題なのか1ミリも理解できません。

西=西方浄土(極楽浄土)というのも現代語でしっかり説明されているし・・・。

これも古文を読めないジャーナリスト向けということでしょうか?

あまりのカス問題に危うく耳から鼻クソが飛び出しそうでした。

 

問5は内容理解の問題。やっと普通の問題。

【文章Ⅱ】の傍線部B「文武両道に秀でた堂々たる人物」とあるが、【文章Ⅰ】において、俊成が忠度の人となりを語った一文として、本文に[  ]で示した次の箇所が挙げられる。ここから読みとれる忠度の人物像として適当な内容を、【文章Ⅰ】に即して、後の選択肢①~⑦のうちから全て選べ。

[さても唯今の御渡りこそ、情けもすぐれて深う、あはれもことに思ひ知られて感涙抑へがたう候へ]

戦に敗れ前途がない状況でも、危険を冒してまで京に戻るほどの強い意志を持った人物
②戦の最中であっても、師に教えを請うためには遠路をものともしない探求心の旺盛な人物
③今や敵となった相手にも、願いをかなえるためには直ちに会いに行く熱意のある人物
④自作の何首かは勅撰集に採られるものと信じて疑わない、和歌への自負心の強い人物
可能性は低いが自分の和歌を託して後世に残そうとした、和歌への思いに満ちた人物
⑥死ぬと分かっていながらも、帝にどこまでも付き従おうとする忠誠心にあふれる人物
⑦目標としてきた師に、最期に武士としての矜恃を認めてほしいと願う誇り高い人物

文武両道というからには、「文」一つ、「武」一つ、と最低2つは正解があるだろうと推定できます。

内容が理解できていれば難しさはありません。

ただ、正解がいくつあるのかが明示されていないことで不安になる受験者はいそうです。

 

問6はまたしても謎のゲロカス問題。古文ではない【文章Ⅱ】の対談形式の現代語で書かれた文章について、その表現と構成の特徴の説明として正しいものを選べ、というもの。

これは衝撃的ですね、まったく出題の意図が分からない。

いや、出題の意図は説明されているのですが。

「複数のテクストを読み比べ、話し合う場面の中で考えを深めていく表現と構成の特徴について読み取る問題である。具体的には、古文の内容を理解し、その古文を読んだ二人の対談の場面を通して、話し手が相手の立場や考えを尊重して話し合うための工夫について理解することができる力を問う問題である」

とのこと。

え?道徳?(笑)

「古文の内容を理解し」と書かれていますが、古文の内容なんて一切関係ない問題ですからね。

問題のゲロカス具合の酷さに、危うく妊娠してしまいそうでした。

アホらしくて引用する気にもなりませんが、気になる方はここからダウンロードしてください。


素材が『平家物語』「忠度都落」ということで、設問を作るのが難しかったのだと思いたいです。笑

正直、テストとして成立していないと思いました。

以上、大学入試新テストとして示された例題(国語)を解いてみた感想でした。

 

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