源氏物語~葵~(24)


三位中将も、非常にしみじみとした目で空を眺めなさっています。

雨となりしぐるる空の浮雲をいづれの方とわきてながめむ
〔時雨を降らせている空の浮雲のうち、いったいどれを亡き妹の煙の雲と見分ければよいのでしょうか〕

行方知れずだよ」

と独り言のようにつぶやきなさると、

見し人の雨となりにし雲井さへいとど時雨にかきくらすころ
〔愛した人が雨雲となって雨を降らせることとなってしまった天空までもが、時雨のためにますます暗くなり、私も泣き暮らしている今日この頃です〕

とおっしゃるご様子から、そのお心が深いことがはっきりと見て取れるので、

「不思議なことだ。長い間、妹への愛情が薄いことについて院などはいつも小言をおっしゃっていたし、父大臣の厚遇も光る君には心苦しく、また母大宮が光る君の叔母にあたるということもあり、そうした様々なことが重なり合って、捨てようにも捨てることができなくて、憂鬱そうにはしながらも夫婦を続けていらっしゃるのだとばかり思って、気の毒にさえ思える時もあったほどだが、真に掛け替えのない重んじるべき正妻のことは、やはり特別な存在だとお思いになっていたようだ」と見て取るにつけ、妹君の死がいよいよ無念に思われるのでした。

中将の君は世の中から光が消え去ったかのような心地にひどくふさぎこんでいました。

枯れた下草の中から竜胆や撫子などが咲いているのを摘んでこさせ、中将の君がお帰りになった後で、若君の御乳母である宰相の君を通して、

草枯れのまがきに残るなでしこを別れし秋の形見とぞ見る
〔草枯れした垣根に咲き残っていた撫子の花ですが、かわいいと撫でた幼い我が子がこの秋に死に別れた我が妻の形見のように思えることです〕

亡き人よりもかわいさが劣っているように御覧になってはいないことでしょう」

と、亡きご内室(葵の上と申し上げることにします)の母、大宮様にお送り申し上げなさいました。

本当に、若君の無邪気な笑顔はたいへんにかわいらしくございました。

※雰囲気を重んじた現代語訳です。


光源氏を見舞いに来た三位中将ですが、自分が思っていた以上に光源氏が葵の上のことを大事に思っていたようだ、と確認しています。

思えば、随分前の「雨夜の品定め」の時に、光源氏が妹・葵の上をぞんざいに扱っていると感じていた三位中将(当時は頭の中将)が光源氏に苦言を呈するシーンがありました。(ここ

それはそうと、亡き葵の上の母というのは「大宮」として出てきましたが、桐壺院の妹にあたる人で、光源氏の叔母にあたる人物です。

以前に系図に登場させたこともありました(その時は女宮として)が、しばらくぶりなので改めて系図で確認して、今回はおしまいにしたいと思います。

源氏物語系図-葵-

<<戻る   進む>>

 

Posted in 古文 | Leave a comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です