源氏物語~葵~(27)


「亡き妻のことを忘れずにいてくれる人は、その寂しさを埋める意味でも幼い我が子を見捨てず、ここに残ってくださいよ。妻がいなくなったのに加えて、あなたたちまでここからいなくなってしまったら、ますます頼りになるものがなくなってしまうだろう」

などと、気を長く持って引き続きお仕えするようおっしゃいましたが、「いやはや、これからはますますこちらへのお越しが待ち遠しくなることだろう」と思うと、非常に心細くございました。

左大臣は、葵の上に仕えてきた女房たちの立場立場を考慮しながら、ちょっとした遊び道具や、本当に亡き人の形見になりそうなものなどを、大袈裟な雰囲気にならないようにしながら、みなお配りになりました。

光る君は、「このようにばかり、どうしていつまでもしんみりと寂しく過ごしておれようか」と、桐壺院の所に参上なさることにしました。

お車の用意をさせ、前駆の者などが集まってくる間、まるで時を知っているかのような時雨が降り、木の葉に吹きつける風が慌ただしく吹き散らすと、お仕えしていた女房たちはますます心細くなって、最近ようやく濡らさずにいた裾を、また涙で濡らすのでした。

夜はそのまま二条院にお戻りになるだろう、といって、光る君にお仕えする人々も、二条院でお待ち申し上げることにしたのだろう、みな左大臣邸を離れて行くので、今生の別れというわけでもないのに、この上なくもの悲しくございます。

左大臣も大宮も、改めて悲しみを身にしみて感じなさっており、光る君は大宮のもとにお手紙を差し上げなさいました。

「桐壺院が私の来訪を待ち遠しいようにおっしゃっているので、本日参上いたします。かりそめにこちらを退出するにつけ、『この悲しみに耐えて今日までよく生き延びたことよ』と、心が乱れるばかりでつらくて、そちらに伺って直接お話しなどしたら耐えられそうになく、かえって参上しないほうがよさそうでしたので」

とあったので、大宮は涙で目もお見えにならず、沈み込んでお返事も申し上げなさいません。

※雰囲気を重んじた現代語訳です。


正妻葵の上の喪に服している光源氏ですが、ひとまず左大臣邸を出て父・桐壺院のもとにむかうことにしました。

大宮というのは3つ前の回に系図を出しましたが、左大臣の正妻にして故葵の上の実母、そして桐壺院の妹にあたる人でした。

悲しみにくれるシーンはまだ続きます。

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