源氏物語~若紫~(40)


源氏物語-若紫

紫の君のお顔立ちは離れて見たときよりも、たいそう美しくございました。

光る君は親しげに語りつつ、面白い絵や遊び道具を取り寄せ、紫の君が興味を引きそうなことをなさいます。

すると、紫の君も次第に起き上がってきて、着慣れた鈍色のお召し物を着て、無邪気に笑っていらっしゃいました。

そのかわいらしさに、光る君も自然と笑みがこぼれつつ、見つめていらっしゃいます。

やがて光る君が東の対にお渡りになったので、部屋の外に出て庭の木立や池などを眺めなさると、

霜枯れした木草などはまるで描かれた絵のような風情がありました。

それに、見たこともない四位、五位の高貴な人たちがひっきりなしに出入りしているのを見て、

「本当に素敵な所だなあ」とお思いになるのでした。

屏風などの面白い絵を見て気を紛らわしていらっしゃるのも、あどけないことです。

光る君は、二、三日の間内裏へも参上なさらず、紫の君をなつかせようと親しくお話をしていらっしゃいました。

たいそう風情のあるものをかき集めなさいました。

「武蔵野といへばかこたれぬ」と、光る君が紫の紙にお書きになった墨つきの格別なのを手に取ってご覧になっています。

光る君が少し小さな声で、

ねは見ねどあはれとぞ思ふ武蔵野の露わけわぶる草のゆかりを
〔共寝はまだしていないが、しみじみ愛しく思われることだ。草の生い茂る武蔵野に置く露を分けて行くことができないように、関係を進めることができない藤壺の宮様と血縁であるこの人が〕

と言い、

「さあ、あなたも何かお書きなさい」

と言うと、

「まだ上手に書けませんもの」

と言って見上げなさるお顔が純真でかわいらしいので、光る君はにっこりと微笑みなさり、

「そうやって書かないのがいけないんですよ。私が教えてあげようね」

とおっしゃったところ、ちょっと横を向いて筆を取り、お書きになりました。

その幼い様子がかわいく思われてならないのを、光る君も我ながら不思議に思っていらっしゃいます。

「書き間違えちゃったわ」

と恥ずかしがってお隠しになるのを、無理に取り上げてご覧になると、

かこつべき故を知らねばおぼつかないかなる草のゆかりなるらん
〔武蔵野の草と私をどのようにかこつけて嘆いているのかが分からないので、もやもやすることです。私はいったいどのような草のゆかりなのでしょうか〕

と、とても幼いながらも女性らしく柔らかな筆の運びに将来性が感じられました。亡くなった尼君の筆跡に似ていました。

今風の手本を習得させたら素晴らしく上達なさるだろう、とご覧になりました。

光る君は、ひな人形などもわざわざそれ用の家を作り続けて一緒に遊びつつ、

藤壺の宮様への思いを紛らわしていらっしゃいました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


これね~、どうなの。。。

紫の君/紫の上って、光源氏に最も愛された妻だなんて言っても、藤壺の宮の代わりなんですよね、結局。
(´;ω;`)ブワッ 

紫の君の返歌がめっちゃ切なくないですか?

しかし鬼畜源氏は「筆跡に才能がある!」とかいってまったく気にも留めていません。

それはそうと、「武蔵野といへばかこたれぬ」という鬼畜源氏の言葉ですが。

知らねども武蔵野といへばかこたれぬよしやさこそは紫の故
〔行ったことはないけれど、武蔵野というとため息が出てしまう。いやもうそれは紫草のためなのだ〕

という「古今和歌六帖」という歌集に収録された歌の引用とのことです。

紫の君の歌はここに出てくる「かこた(れぬ)」を受けて、「かこつべき」と詠み始めたのですね。

 

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