乳母のような存在の年老いた女房は、夕方から眠たがって部屋に横たわってうとうとしておりました。
二、三人の若い女房たちは、世間で評判の光る君の御姿を拝見したくてそわそわしています。
女房たちは、姫君を少しはまともなお召し物に着替えさせ申し上げましたが、
ご本人は何のお心づもりもなくていらっしゃいました。
光る君は、言葉では語り尽くせない立派なお姿を、人目を避けて目立たないようにしていたのも非常に美しくて、
「この素晴らしさを見る目がある人に見せたいものね。こんな見栄えのしない所はもったいないわ。
ああ、お気の毒な光る君様」と大輔の命婦は思いましたが、姫君がおっとりしていらっしゃることに安心しており、
そんなにひどい振る舞いはお見せなさらないだろう、と思っていました。
「これで、いつも手引きをするように責め立てられていたことから私は解放されるけど、その代わり、
姫君にお気の毒な物思いの種が芽生えてしまうのだわ」と思うと、心苦しくもありました。
光る君は、この姫君の人柄を想像して、ひどく上品ぶっている今時の女性よりも格段に奥ゆかしいだろう、
と思いこんでいらっしゃるのでした。
あれこれ促された姫君が入り口の襖の方に近寄りなさると、
心惹かれる香の薫りがほのかに漂ってきて、おっとりしていらっしゃるのを、
「やはり思った通りの人だ」と光る君は思っていらっしゃいます。
ずっと思い続けてきたのだ、というようなことを言葉巧みにおっしゃるのですが、
相変わらずお返事は一向にございません。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
ついに接近した光源氏と末摘花。
で、単に「香」と訳したのですが、「えび香」という風に本文には書いてあります。
岩波文庫の注には、
衣を薫らすのに用いる香。栴檀センダンを材料とする。
と書かれています。が、栴檀ではなく白檀ビャクダンだと思います。(参照)
「裛衣香」と書いたり「衣被香」と書いたりするようです。
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