その装束は、色こそ今風でしたが、耐えがたいほど古臭くて品のない、表地も裏地も濃い同じ色で、
ひどく平凡な直衣の裾が見えていました。
呆れたことだとお思いになった光る君が、その手紙を広げて端に何かをお書きになるのを横目に見ると、
「なつかしき色ともなしに何にこの末摘花を袖にふれけん
〔心惹かれる風情でもないのに、どうして末摘花を手にしてしまったのだろう〕
色の濃いハナに見えたが」
などと書き散らしなさるのでした。
末摘花に喩えて悪く言うわけをあれこれ思い巡らせて、たまに月明かりに拝見した姫君のお顔を思い浮かべると、
その言われようを「おかわいそうに」と思いつつ、おかしくも思われました。
「くれなゐのひとはな衣うすくともひたすらくたす名をし立てずば
〔一回しか染めていない衣の薄い色のように、赤い鼻の姫君への愛情が薄かったとしても、評判を傷つけるような噂さえお立てにならなければ〕
心苦しいことだわ」
と、たいそう慣れた様子で独り言のように詠むのは、出来の良い歌ではありませんでしたが、
「姫君にも、これくらい平凡でもいいから歌を詠む素養があればよかったのに」と心から残念に思われるのでした。
家柄が高貴であるだけに、評判を貶めるのはさすがに気の毒でございます。
女房たちが参上するので、
「衣装箱は片付けようか。このようなことを私がしていたらおかしいだろう」
とため息まじりにおっしゃるのでした。
「どうしてお目に掛けてしまったのだろう。これじゃあ私まで無風流みたいだわ…」
と今さらながら恥ずかしい気がして、そっと退出しました。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
ここで、常陸の姫君の通称が「末摘花」と決まります。
以前にも書いたかも知れませんが、末摘花とはベニバナのことです。
この辺りの和歌に出てくる「はな」は「花/鼻」の掛詞になります。
姫君の鼻の先端が赤かったので、このベニバナに喩えられてしまいました。
それから、大輔の命婦の歌に出てくる「ひとはな衣」というのは、三省堂詳説古語辞典によると、
一回染めただけの、薄い色の衣。
とのことです。
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